「え、厚生年金が基礎年金に使われてるの?」――そんな声がSNSでもちらほら聞かれます。
実はこれ、都市伝説でも裏話でもなく、れっきとした制度上の“仕組み”なんです。
現在、日本の年金制度は「基礎年金(国民年金)」と「厚生年金」という二階建て構造。
しかし、近年は少子高齢化の影響で、基礎年金を支える財源が不足し、厚生年金からの“拠出金”で補う構造が定着しつつあります。
本記事では、なぜこのような制度になっているのか、その理由と背景、そして将来に向けた課題まで、わかりやすく解説していきます。
基礎年金と厚生年金のちがいとは?仕組みをやさしく解説
老後の生活を支える年金制度には「基礎年金」と「厚生年金」という2つの柱がありますが、両者には大きなちがいがあります。
ひとことで言えば、「誰が入るか」「いくらもらえるか」という部分で構造が異なります。
基礎年金(いわゆる国民年金)は、20歳以上60歳未満のすべての人が対象で、自営業・学生・無職の方などが自分で保険料を納める制度です。
いわば“年金の土台”であり、老後の最低限の生活を支えることを目的としています。
一方、厚生年金は会社員や公務員が加入する年金で、基礎年金のうえに“報酬比例の上乗せ”があるのが特徴。
保険料は給与に応じて自動的に天引きされ、会社と折半で納める仕組みです。
さらに、専業主婦(夫)なども「第3号被保険者」として保険料なしで基礎年金を受け取ることができるのです。
なぜ厚生年金の財源が基礎年金に使われるのか?
実は、厚生年金の保険料の一部は「基礎年金」の運営にも回されています。
その背景には、「第2号・第3号被保険者(会社員とその配偶者)」が、基礎年金を受け取るにもかかわらず、自分で国民年金保険料を払っていないという事実があります。
代わりに厚生年金の財源から“拠出金”というかたちで基礎年金会計に資金が移されているのです。
つまり、自営業やフリーランスなどが支払う国民年金保険料だけでは足りないため、厚生年金がその穴を埋めているわけです。
制度の裏にある“優遇の構造”とそのツケ
近年、少子高齢化が進み、第1号被保険者の割合が減少しています。
その中でも、2号・3号のように実質負担の少ない人たちが基礎年金の大多数を占めているという、いびつな構造が続いてきました。
たとえば、国民年金保険料は月額18,300円(2024年度)ですが、会社員の厚生年金保険料は企業と折半で実質8,000円ほど。
しかも厚生年金は報酬比例も含まれており、保障内容も充実しています。
この状況は「不公平」というより、意図的に設計された“制度上の優遇”と言えるかもしれません。
そして今、厚生年金から基礎年金への支援が強化されているのは、いわばその“優遇のツケ”を回収する動きとも言えるのです。
年金制度を理解することが“老後の安心”への第一歩
基礎年金と厚生年金は、どちらも日本人の老後を支える大切な制度です。
しかし、その仕組みには「誰がどれだけ負担して、誰がどれだけ受け取るのか」といった構造上の格差があるのも事実です。
これから先、制度改革の議論がさらに進む中で、自分がどの立場にいて、どのように制度を活用していくべきかを知っておくことが、将来の安心につながります。
年金は遠い未来の話ではなく、今を生きる私たち一人ひとりの“責任ある選択”なのです。
年金制度はこれからどうなる?将来の不安と現実的な選択肢
これからの日本の年金制度は、避けられない「調整の時期」に入っています。
特に焦点となっているのは、「今の給付レベルをどう維持していくか」という課題です。
今の仕組みでは、物価や賃金、人口の変動に応じて年金の支給額を調整する「マクロ経済スライド」というルールが働いています。
しかし、この調整が続けば、今後数十年のうちに基礎年金が約3割以上も減る可能性があるのです。
将来の高齢者が直面する“生活の危機”
この影響を特に受けやすいのが、非正規雇用で働く人や就職氷河期世代、そして年金加入歴が短い女性たちです。
十分な年金を受け取れないまま高齢を迎えることで、生活保護への申請が急増し、国の財政を圧迫する可能性が高まります。
つまり、今のままでは“自立した老後”どころか、“生活の維持すら厳しい未来”が見えてくるのです。
厚生年金と税金の“ダブル支え”が現実に?
そこで浮上しているのが、「厚生年金の拠出金」と「国の税金」の両方で基礎年金を支える仕組みです。
単に税金に頼れば、消費税の大幅アップや赤字国債への依存という経済リスクが避けられません。
そのため、厚生年金からの支援を組み合わせた“ハイブリッド型”が、より現実的な選択肢として注目されています。
支え合いの仕組みと“自分事”としての年金制度
「会社員の保険料が国民年金に流れるなんて不公平」と感じる人も多いでしょう。
しかし、見方を変えれば、それは「社会全体で老後を支える仕組み」とも言えます。
誰しもが将来、2号や3号の立場になる可能性があります。つまり年金制度は、他人事ではなく、自分自身の未来に直結したテーマなのです。
まとめ
厚生年金が基礎年金の財源に使われる仕組みは、制度の“穴”ではなく“支え合い”の形の一つです。
特に第3号被保険者のように保険料を直接支払っていない人たちが将来、基礎年金を受け取るには、厚生年金からの補填が必要不可欠となっています。
この構造は、将来的に年金制度を安定的に維持するための「現実的な解決策」でもあります。
今後さらに制度改革が進む中で、私たち一人ひとりが年金のしくみを理解し、自分ごととして考えていくことが求められているのです。